iPS細胞「心筋細胞シート」九州大でも移植手術 大阪大など開発

東京, 2月15日, /AJMEDIA/

iPS細胞から心臓の筋肉の細胞を作ってシート状にした「心筋細胞シート」を心臓病の患者に移植する手術を行ったと、九州大学と大阪大学のグループが発表しました。
シートを開発した大阪大学以外で手術が行われるのは2か所目で、安全性と有効性を確認し、保険が適用される治療法としての承認を目指すとしています。

これは14日、九州大学と大阪大学が記者会見で発表しました。

それによりますと、九州大学では先月中旬、iPS細胞から心臓の筋肉の細胞を作りシート状に培養した「心筋細胞シート」を、虚血性心筋症という重い心臓病の50代の男性の心臓の表面に貼り付けて移植する手術を行ったということです。

心筋細胞シートは大阪大学などのグループが開発したもので、大阪にある施設で作り、九州大学に運んだということです。

患者の手術後の経過は順調で、14日退院したということです。

大阪大学などは、シートの移植についてこれまでに大阪大学以外にも東京の順天堂大学でも治験として実施していて、合わせて8人の患者の手術を予定しています。

今後、患者の経過をみて安全性や有効性を確認できれば、保険が適用される一般の治療法としての承認を国に申請したいとしています。

九州大学の塩瀬明教授は「地域の心臓病治療の拠点となっている九州大学でも手術が安全に実施できることが確認できてよかった」と話していました。

また、大阪大学の澤芳樹特任教授は「安全性や有効性の確認を進め、多くの患者に届けられるように努めたい」と話していました。

「心筋細胞シート」とは
「心筋細胞シート」は、iPS細胞から心臓の筋肉「心筋」の細胞を作製し、厚さ0.1ミリのシート状に培養したものです。

シートは直径数センチの大きさで、1回の移植に使う3枚には心筋細胞がおよそ1億個含まれています。

シートの状態でも心臓と同じように拍動していて、手術ではこのシートを3枚、全身に血液を送り出す役割を担う「左心室」のあたりに直接、貼り付けて移植します。

大阪大学の澤芳樹特任教授らのグループは、このシートを重い心臓病の患者の心臓に直接、貼り付けることで、心臓の収縮する力を回復させる研究を進めていて、治験を行って安全性や有効性を調べています。
「心筋細胞シート」移植手術受けた患者は
今回、九州大学でiPS細胞から作った「心筋細胞シート」の移植手術を受けたのは、山口県内に住む50代の男性です。

男性は17年前、心筋梗塞になり、その後、心臓の血管の血流が悪くなって全身に血液をうまく送り出せなくなる虚血性心筋症と診断されました。

これまで手術や薬による治療を受けてきましたが、症状は改善しなかったということです。

そうした中、今回の治験があることを知り、参加を決めたということです。

男性は「手術の前は不安がなかったわけではありませんが、治験に参加することで同じ病気で悩む患者の未来にもつながっていくのではないかと考えています。手術を終え、今は参加してよかったと思っています」と話していました。
iPS細胞から作った臓器や組織の細胞移植 現状は
iPS細胞から作ったさまざまな臓器や組織の細胞を患者に移植する臨床研究や治験は、各地の大学や研究機関などで行われています。

【心臓の治療】
このうち心臓の細胞について、大阪大学のグループは、重い心臓病の患者の心臓に、iPS細胞から作った心臓の筋肉の細胞をシート状に培養した「心筋細胞シート」を移植する手術を3年前初めて行いました。
手術は将来、一般的な治療になることを目指し安全性や有効性を確認する治験として行われ、今回のように大阪大学以外の施設でも手術が行われています。

また、慶応大学の研究者らが設立した医療ベンチャー企業は去年12月、重い心臓病の患者の心臓にiPS細胞から作った心臓の筋肉の細胞を球状に加工して注射で移植する手術を行いました。
こちらも治験として行われ、今後、安全性や有効性を確認するとしているほか、慶応大学でも臨床研究の準備を進めているということです。

【目の治療】
世界で初めてiPS細胞から作った組織を移植する臨床研究を行ったのは、神戸市の理化学研究所などのグループで、2014年に「加齢黄斑変性」という重い目の病気の患者にiPS細胞から作った目の網膜の組織を移植しました。

その後、神戸市立アイセンター病院で、ほかの目の病気の患者に対する臨床研究も行われています。

また、2019年には大阪大学などのグループが、重い角膜の病気の患者にiPS細胞から作った角膜の組織をシート状に培養し移植する臨床研究を行い、去年、安全性と有効性が確認されたと発表しました。

【神経の治療】
神経の再生を目指す治療法の研究も行われています。

京都大学のグループは2018年からパーキンソン病の患者の脳にiPS細胞から作った神経のもとになる細胞を移植する治験を実施し、新たな治療法としての承認を目指しています。

また、慶応大学のグループは、脊髄を損傷した患者にiPS細胞から作った神経のもとになる細胞を移植する臨床研究を進めていて、おととし患者に移植する初めての手術を行い、去年には2例目となる移植も実施しています。

【血液の治療】
京都大学のグループは2019年、血小板などが少なくなる難病の「再生不良性貧血」の患者にiPS細胞から作った血小板を投与する臨床研究を行い、去年、安全性が確認されたと発表しました。

また、同じ研究者が創業した京都市のバイオベンチャー企業も出血を止めるのに必要な血小板が少なくなる「血小板減少症」の患者にiPS細胞から作った血小板を投与する治験を去年から進めています。

【NKT細胞】
理化学研究所と千葉大学のグループは3年前、頭頸部がんの患者にiPS細胞から作ったナチュラルキラーT細胞という免疫細胞の一種を移植し、iPS細胞を使ったがんの治療としては初めての治験を行っています。

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