米と連携、中国とは対話模索 台湾情勢緊迫に岸田首相苦慮

東京, 8月6日, /AJMEDIA/

 ペロシ米下院議長の台湾訪問で米中対立が緊迫の度を増す中、岸田文雄首相は日米同盟の連携強化を図る一方、中国との対話も粘り強く探る構えだ。だが、中国は台湾周辺で軍事圧力を強め、自制を促した日本にも反発して外相会談をキャンセル、対話の機会を閉ざした。同盟強化では、対米公約となった「防衛力の抜本的強化」にどこまで踏み込むか、首相は難しい判断を迫られる。
 首相は5日、ペロシ氏と首相公邸で1時間近く朝食を共にした。この後、記者団の取材に応じ、「台湾海峡の平和と安定を維持するため、日米で緊密に連携していくことを確認した」とアピールした。
 日本政府内には、首相自ら会談内容を説明することには、中国を一段と刺激しかねないとみて否定的な意見もあった。首相があえて前面に出てきたのは、中国の弾道ミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)内に初めて着弾し、日本の安全保障が脅かされた事態を重く見ているためだ。
 「日本としては防衛力を高めつつ、日米同盟を強化していくしかない」。政府関係者はこう言い切る。首相は5月の日米首脳会談で「防衛力の抜本的強化」を約束。安倍晋三元首相が生前、「台湾有事は日本の有事」と警鐘を鳴らしたことを踏まえ、自民党保守派を中心に防衛費の大幅増額を迫る動きが年末に向け加速する可能性もある。
 実際、政権内では対中強硬論が台頭しつつある。政府は4日、北朝鮮ミサイル発射時は常としている国家安全保障会議(NSC)を開かなかった。政府高官は「中国のケースは国連安保理決議違反ではない」と釈明するが、防衛省関係者は「及び腰だ」と不満を漏らした。自民党中堅は「外相会談は日本の方から断るべきだった」と語った。
 ただ、中国は日本の隣国であり、経済的結び付きも強い。国交正常化50年を迎える9月29日をにらみ、対話の機運を醸成してきた経緯もある。首相は、ミサイルがEEZ内に落下した4日の段階では報道各社のインタビューに応じず、状況の見極めに努めた。自民党の閣僚経験者は「次は中国との話し合いだ」と指摘し、外務省幹部も「日本の役割は米中対話を促すことだ」と求める。
 もっとも、米中の橋渡しは容易ではない。そもそも、米国や欧州各国に中国の軍事的台頭を警告してインド太平洋への関心を訴えてきたのは日本だ。政府はペロシ氏訪台の評価に言及せず、距離を置いているものの、中国は4日、日本が名を連ねた先進7カ国(G7)外相声明に反発し、日中外相会談を直前に中止した。中国外務省の華春瑩報道局長は記者会見で「日本は米国の主権侵害行為のお先棒を担いだ」と突き放した。
 不測の事態を回避するための不断の外交努力は欠かせないが、政府の姿勢からは明確なビジョンはうかがえない。松野博一官房長官は5日の会見で、緊張が高まる中での日本の役割を問われ、「米中関係の安定は極めて重要だ。米国との強固な信頼関係の下、中国に大国としての責任を果たすよう働き掛けていく」と一般論に終始した。

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