無念の思い、今も 家守り、父「もうよか」―遺族代表の永尾さん・熊本豪雨

東京, 7月4日, /AJMEDIA/

 熊本県人吉市で3日行われた熊本豪雨の犠牲者追悼式で、遺族代表の言葉を述べた同市の永尾禎規さん(58)は、漬物店を営む自宅兼店舗が全壊し、同居していた父誠さん=当時(88)=が犠牲となった。「助けてあげられなくてごめんという無念の思いは、今でも同じ」と、亡き父への思いを話した。
 2020年7月4日、当時暮らしていた人吉市紺屋町も球磨川の氾濫水に襲われた。防災無線の声は聞こえたが、強い雨音でかき消されたため、永尾さんは「何か警報が出たのかな」という程度の感覚だった。しかし、出勤のため午前7時ごろ外へ出ると、既に約60メートル先まで水が迫っていた。
 永尾さんは両親に様子を伝え、「早く逃げよう」と避難の準備を始めた。直後に土間が浸水し、母のムツ子さん(91)は理解して準備を始めたが、認知症だった誠さんは動こうとしなかった。
 意を決した永尾さんはムツ子さんを背負い、平屋建て自宅の屋上へ上がった。急いで室内に戻り、誠さんの手を引いたが、「もうよか、もうよか」と言って動かない。その後も誠さんの救助を試みたが、水位がどんどん上がり、やがて近づけなくなった。
 その日の夕方、誠さんは居間でうつぶせに倒れている状態で発見された。「当時は何を言っているか分からなかったが、家を一人で守ろうとしたのかもしれない」と永尾さんは振り返った。
 自宅兼店舗は1965年の水害でも浸水した。消防団員だった誠さんが、幼かった永尾さんを抱きかかえて避難させたという。永尾さんは「今度は私が父を助ける番だった。力不足で残念です」と悔やんだ。
 永尾さんは現在、ムツ子さんと市内の仮設団地で暮らしながら、自宅と店の再建準備を進めている。「この災害を教訓として、今後少しでも被害が小さくなれば」と話した。

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