岸田政権、分配戦略はどこに? アベノミクスとの違い不明瞭

東京, 6月2日, /AJMEDIA/

 岸田文雄首相の看板政策「新しい資本主義」は、5月31日に公表された実行計画案で全体像が示された。だが、眼目となる中間層の底上げに道筋をつける分配戦略の具体策は見えない。市場への配慮から、富裕層に新たな負担を求める方策も打ち出せず、成長戦略を重視した安倍政権の経済政策「アベノミクス」との違いは不明瞭になった。
 分配戦略の乏しさは、1日の衆院予算委員会で早速やり玉に挙がった。「『分配なくして次の成長なし』と言いながら、再配分の政策は後回しにしている」。立憲民主党の泉健太代表がこう追及すると、首相は「経済全体の持続可能性を維持するために『成長も分配も』と言っている」と防戦に追われた。
 首相は昨年9月の自民党総裁選で「新しい日本型資本主義」を掲げ、「成長と分配の好循環」を目指すと訴えた。所得格差の是正に向け、富裕層から中間層へ富を再分配する具体策として唱えたのが、株式や配当で得た利益に課税する金融所得課税の強化や、所得が1億円を超えると税負担率が下がっていく「1億円の壁」の打破だった。
 だが、狙い撃ちにされた投資家の反発を買い、就任直後の株価下落が「岸田ショック」と評されると、首相は持論の封印に追い込まれた。今年5月に英ロンドンの金融街シティーで行った講演では、従来繰り返した「所得倍増」に触れず、「投資による資産所得倍増」に初めて言及した。
 「市場を軽視する印象を持たれてしまった。経済政策の全体像を話す必要があった」。軌道修正の理由を、首相周辺はこう説明する。首相はこの講演で「インベスト・イン・キシダ(岸田に投資を)」とアピール。「バイ・マイ・アベノミクス(アベノミクスは買いだ)」と訴えた安倍晋三元首相を意識した発言だったが、「投資家の反応は鈍かった」(与党関係者)のが実情だ。
 新しい資本主義の実行計画案は、資産所得倍増に向け、少額投資非課税制度(NISA)や個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)の拡充を盛り込んだ。ただ、これらは安倍政権が金融市場の活性化策として打ち出してきたもので、新味に欠けることは否めない。
 「政策の順番が大事だ。まずは人への投資、賃金(上昇)を最優先に考えていく」。首相は予算委で格差是正策の欠如を指摘され、こう答えるのが精いっぱいだった。

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