マルコス復権、「夢であって」 弾圧受けた被害者ら―フィリピン大統領選

東京, 5月11日, /AJMEDIA/

フィリピン大統領選でマルコス元上院議員が勝利した。父親の故マルコス元大統領の独裁政権下で行われた市民らに対する弾圧で、拷問を受けたり命を落としたりした被害者とその家族にとって、マルコス一族の復権は受け入れ難い現実だ。被害者らは「怖い」「夢であって」と声を落とした。
 独裁政権末期にマルコス氏が知事を務めた北イロコス州。農業を営む男性バギンさん(47)は1984年の出来事が忘れられない。一緒にいた父ジュンさん(70)が30人の兵士に捕らえられ、拷問を受ける姿を目の当たりにした。
 兵士らは「(共産ゲリラの)新人民軍の支援者だろ」と決め付け、「新人民軍の居場所を教えろ」とジュンさんに迫った。「支援者ではない」と否定するたび、兵士らは手や足の近くに銃を撃ったり墓穴を掘ったりして脅し続けた。
 バギンさんは当時8歳。解放されるまでの14時間を「絶望的でつらい時間だった」と振り返り、マルコス氏勝利は「夢であってほしい」と話した。
 同州で植物販売を営む女性テヘロさん(77)は77年、妹プリさん=当時(28)=を失った。民主化運動に参加していたプリさんは、知人を見舞いに行く途中、兵士に左肩を撃たれた。運ばれた病院に軍人が押し掛け、「尋問させろ」と執拗(しつよう)に迫った。6日後、プリさんは病院のトイレで遺体となって発見。首に電線が巻かれ、胸がぬれていた。
 「信じられないことに、今回の選挙では教師をする友人までマルコス氏を支援した」。そう嘆くテヘロさんは、「マルコス新大統領」の誕生は「怖い」と話し、言葉を詰まらせた。
 同州に住む女性アガルパオさん(89)の息子ロヘリオさん=同(20)=とエルピディオさん=同(17)=は85年から行方不明だ。病気の弟のために薬草を探しに訪れた隣町で、軍の尋問を受ける姿が目撃されたのを最後に、2人とも消息が途絶えた。ゲリラと間違われた可能性がある。大統領選についてアガルパオさんは「自分の考えを明かす勇気はない」。おびえる様子を見せた。
 国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、マルコス元大統領時代の弾圧で少なくとも3200人が殺害された。約3万4000人が拷問を受け、約7万人が投獄された。

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