ことしのノーベル生理学・医学賞に「人類の進化」の研究者

東京, 10月4日, /AJMEDIA/

ことしのノーベル生理学・医学賞の受賞者に、絶滅した人類の遺伝情報を解析する技術を確立し、人類の進化に関する研究で大きな貢献をした、ドイツの研究機関の研究者で、沖縄科学技術大学院大学にも在籍するスバンテ・ペーボ博士が選ばれました。

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スウェーデンのストックホルムにあるノーベル賞の選考委員会は、日本時間の3日午後6時半すぎ、ことしのノーベル生理学・医学賞の受賞者を発表しました。

受賞が決まったのは、スウェーデン出身で、ドイツのマックス・プランク研究所のスバンテ・ペーボ博士です。ペーボ博士はOIST=沖縄科学技術大学院大学の客員教授も務めています。
ペーボ博士は絶滅した人類の遺伝情報を解析する技術を確立し、4万年前のネアンデルタール人の骨に残っていた遺伝情報を詳しく調べて、現代の人類であるホモ・サピエンスと比較しました。その結果、ホモ・サピエンスはネアンデルタール人の遺伝情報の一部を受け継いでいることを突き止め、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人とで種が交わっていた可能性を明らかにしました。

さらに、絶滅した人類の遺伝情報は▼標高の高い土地での生存を有利にしたり、▼ウイルスに対する免疫の反応の仕方に影響したりするなど、いまの私たちの体の仕組みをより深く理解するのにつながっています。

またペーボ博士はそれまで知られていなかった、絶滅した別の系統の人類、「デニソワ人」を発見したほか、「古ゲノム学」という新しい学問分野を切り開くなど、人類の進化の過程を理解する上で大きな貢献を果たしたとしています。
“ペーボ博士 とても喜んでいた”
選考委員会の担当者によりますと受賞の知らせはペーボ博士に電話で伝えたということです。

このときのようすについて「彼は圧倒され、ことばを失いそしてとても喜んでいた。妻に話してもいいかと聞かれたので、私は大丈夫だと答えた」と述べ、博士が受賞について感激していたことを明らかにしました。
ペーボ博士が記者会見「研究を突き動かすのは好奇心」
ペーボ博士は3日、所属するドイツのマックス・プランク研究所で記者会見し「最初は、同僚による洗練された冗談だと思ったが、説得力がありすぎたので真実だと受け入れた」と喜びを語りました。

そのうえで「研究を突き動かすのは好奇心だ。過去を知るために考古学的な発掘をするように、私たちはヒトゲノムの発掘を行っているようなものだ」と述べました。

また、ペーボ博士は、記者から「受賞で何が変わると思うか」と質問されると「何も変わらないことを願う。多くの記者に邪魔されずに静かに研究を続けられるといい」と応じ、会場の笑いを誘っていました。
沖縄科学技術大学院大学でも研究
スバンテ・ペーボ博士は、2020年から沖縄科学技術大学院大学(=OIST)の客員教授を務めています。

大学によりますと、ペーボ博士は沖縄科学技術大学院大学ではネアンデルタール人やデニソワ人から私たちホモ・サピエンスに受け継がれたDNAや、現代人にしか見られないDNAの機能を解明する研究を行っているということです。

ペーボ博士は古代人の骨からDNAの断片を抽出して解析する遺伝学的手法を取り入れて世界で初めてネアンデルタール人のゲノム解読に成功したことなど、今の人類の誕生や進化の解明に新たな光を当てたとして、2020年の「日本国際賞」に選ばれ、ことし4月に東京で開かれた授賞式に出席しています。

沖縄科学技術大学院大学のピーター・グルース学長は、3日午後10時すぎ、OISTのホームページでコメントを発表し「教員一同、心よりお祝いを申し上げます。スバンテ氏は今後、OISTでネアンデルタール人とホモ・サピエンスのゲノムの比較解析に取り組むことを希望しており、本学としても大変喜ばしく思っています。この研究を通して何が私たちを人間たらしめるのかという問いに、重要な知見がもたらされることでしょう」としています。
新型コロナ重症化リスクと遺伝子の関係も研究
ペーボ博士は、ネアンデルタール人から受け継がれた遺伝子が、新型コロナウイルスの重症化リスクにも関わっていることを国際的な科学雑誌「ネイチャー」や「アメリカ科学アカデミー紀要」に報告しています。

沖縄科学技術大学院大学によりますと、ペーボ博士の研究チームは、おととし9月、新型コロナの患者3000人以上を対象に分析した結果、重症化リスクを増加させることが確認された遺伝子が、ネアンデルタール人から引き継がれたもので、この遺伝子を持つ人ではリスクが倍増すると、「ネイチャー」に発表しました。

また、去年2月には新型コロナに感染して重症化した患者2200人余りの分析で、同じくネアンデルタール人から引き継がれた、別の遺伝子がある人では、逆に重症化が22%抑えられることを明らかにしたと「アメリカ科学アカデミー紀要」に報告しました。

大学のウェブサイトでペーボ博士は「およそ4万年前に絶滅したネアンデルタール人の免疫システムが、現代の私たちに良い意味でも悪い意味でも影響を与えているのは驚くべきことです」とコメントしています。
親子2代にわたってノーベル賞受賞
ペーボ博士が所属する研究所を傘下に収めるドイツのマックス・プランク協会は受賞が決まったあとに声明を発表し「彼の研究は現代人の進化の歴史に関するわれわれの理解に革命をもたらした」として功績をたたえています。

マックス・プランク協会によりますと、ペーボ博士の父親は1982年に同じくノーベル生理学・医学賞を受賞したスネ・ベリストローム氏だということです。

ノーベル賞の公式ホームページによりますと、これまでに親子2代にわたってノーベル賞を受賞したのは「キュリー夫人」としてその名を知られたマリー・キュリーさん親子など合わせて7組います。
専門家 “人類の進化 注目の機会に”
ノーベル生理学・医学賞の受賞者にスバンテ・ペーボ博士が選ばれたことについて、人類の進化の研究が専門で、国立遺伝学研究所の斎藤成也 特任教授は「絶滅してしまったネアンデルタール人の目や肌の色などは骨からではわからないが、ゲノムを調べればいろいろなことがわかる。10万年前、20万年前に私たちとは分かれていったネアンデルタール人のDNAをつかむことができたことがペーボ博士の大きな業績で、非常にロマンを感じる」と話しています。

また「進化学の分野ではノーベル賞はとれないと言われてきたので、受賞が決まったことは非常にうれしいことだ。新型コロナウイルスのワクチン開発など現実的なことに目が向くことが多いが、人類や生物の進化に注目してもらえるいい機会になるといい」と話していました。
“ノーベル生理学・医学賞 評価の範囲を広げてくれた”
ペーボ博士と同じ分野の研究をしていて25年以上の知り合いだという国立遺伝学研究所の五條堀孝 名誉教授(70)は「すばらしいことで、本当にうれしく思う。彼の研究は人類の起源を化石や人骨から調べて病気への耐性やかかりやすさを解明したもので、新型コロナウイルスの研究にも寄与した。人類の進化やゲノム学の分野までノーベル生理学・医学賞が評価の範囲を広げてくれたことは、私を含めて同じ分野の研究者を勇気づけてくれた」と喜びをあらわにしました。

また、ペーボ博士の人柄について「多くの人が無理ではないかと思うようなことにも、挑戦していくタイプで、高い目標を立てて徹底的に取り組む野心のある人だ。多くの研究者の模範となるような人で私も彼の人柄や姿勢をとても尊敬している」と話していました。

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