東京, 04月04日 /AJMEDIA/
プロ野球やJリーグが開幕。
ファンが一喜一憂するシーズンが始まりました。
国内のスポーツ関連市場は年間9兆円とも言われ、市場拡大に向けたカギの1つが人材育成です。
京都市の専門学校では“裏方のプロフェッショナル”を養成する珍しい取り組みが行われ、注目を集めています。
(大阪放送局記者 山内司)
スポーツに関わる仕事に就きたい!
「スポーツやイベントに触れた人たちが、少しでも元気や笑顔になれるきっかけの1つを与えられたらいいな」
京都市にある京都医健専門学校。
スポーツトレーナーや柔道整復師などアスリートや暮らしの健康を支えるスペシャリストを10を超える学科で養成しています。
おととし(22年)新設されたのが「スポーツマネジメントテクノロジー科」。
1期生の谷口あいさん(20)は将来、国内外でスポーツに関わる仕事をしたいと福井から入学しました。
谷口あいさん
「高校まで12年間バドミントンをしていたのですが、ケガが多く、結果を出せない時期が続きました。そういう中で選手や大会を支えている人たちの姿を見て、多くの人たちを楽しませることができるイベントを企画したいと思ったのがきっかけです」
新たな学科の特徴は
4年間学ぶこの学科では、多くの現場実習や海外留学を通じて実践的なスキルを身につけます。
ここで学んだ経験を生かして
▽チームやスポーツ団体などの運営
▽スポーツに関わるイベントの立案
▽将来的には経営者の養成も目指しています。
まさに“裏方のプロフェッショナル”の養成です!
専門学校では全国的に珍しいという取り組みを始めた背景には国のスポーツビジネスの拡大戦略が関わっていました。
国内のスポーツ事情
2015年にスポーツ庁が設置され、その翌年(16年)には「日本再興戦略」でスポーツが成長産業として位置づけられました。
市場規模を拡大する目標が掲げられ、人材の育成や経営力強化の支援などに取り組む方針も示されました。
国内のスポーツビジネスの事情に詳しい、大手コンサルティング会社「デロイト トーマツ」の里崎慎さんは、日本でスポーツビジネスは新興産業にあたると指摘します。
「デロイト トーマツ」スポーツビジネスグループ 里崎慎シニアヴァイスプレジデント
「プロ野球やJリーグはビジネスを主目的に作られたプロリーグではなく、どちらかと言えば競技面の向上がメインでした。日本では10年ほど前までは、スポーツというコンテンツを使ってお金を稼ぐことが『ご法度』に近い感じで捉えられてきたのです」
「その後、スポーツ庁ができるなど徐々にスポーツビジネスが国民に前向きに受け入れられる環境に変わってきました。まだまだ日本は『黎明期』だと思います。スポーツコンテンツを使ってどのように収益が上げられるかを考えて実践できる人はまだ限られています」
即戦力の育成へ
この専門学校で指導するのは、海外の大学院で専門的にサッカービジネスを学び、プロのサッカークラブでも実務経験がある講師。
現場実習では学生みずからがイベントを企画・運営したり、スポンサーを集めたりするなど、主体的にスポーツビジネスに関われるカリキュラムが組まれています。
実習で成長1 立案から交渉も…
それが「部活動」との連携です。
1つの例がプロサッカー選手を招いた企画。
J1京都サンガ(当時はJ2)でプレー経験のある山瀬功治選手(レノファ山口)に参加を交渉し、サッカー部とコラボレーションした「サッカー教室や交流会」を企画。
協賛を呼びかけた地元企業から資金を集めたのです。
スケジュール調整からイベントの企画・運営まですべて学生が取り組みました。
実習で成長2 スポンサー集めの難しさ経験
さらにスポンサー営業の実習にも取り組んでいます。
先月(3月)までおよそ半年間に渡って学生たちが挑戦したのは、サッカー部のユニフォームやTシャツに企業名などを掲載する代わりに、協賛してくれる企業を探すことでした。
チームの強化費のほか、活動を宣伝するチラシやポスターの制作費などに充てます。
ことし2月、学生が営業に向かったのは京都市を中心に整骨院を展開する会社。
専門学校生の就職先として挙がります。
試合で着るユニフォームに社名を露出することで学生などに認知が広がるメリットを提示しました。
しかし社長からは「メリットがもう少し欲しい」と求められました。
学生たちは十分にメリットを示すことができず、協賛は見送りとなりました。
学校に戻った学生たちは、プレゼンテーションに何が足りなかったのか意見を出し合いました。
交渉の席で社長が「会社と学校のパイプをもっと密にできるような取り組みがあればうれしい」と話していたことを踏まえて検討しました。
翌日、改めて訪問した学生たちはメリットを加えた内容を提示しました。
男子学生
「プロスポーツの『スポンサーブース』の出展から着想を得たのですが、学校の文化祭でスポンサーと一緒に骨盤矯正などの無料体験会を開催できないかと考えています。幅広い年代のたくさんの方々が訪れる機会で会社や業界の認知も広がると思います」
社長の判断は…
小林賢太郎社長
「実は整骨院業界というのは何をしているのか分からないという人がたくさんいて、アピールできる機会があったらいいなと思っていました。非常にありがたいご提案です。
短期間で色々と絞り出し、みなさんの熱意が伝わりました。今回だけでなく、来年や再来年も組ませていただけたらうれしいです」
小林賢太郎社長(左)と谷口さん
社長はスポンサー契約を快諾してくれました。
先月(3月)にはスポンサーの会社名が入ったユニフォームが完成し、サッカー部員にも着用してもらいました。
サッカー部員
「ピッチ外で関わってくださる人が非常に増えたので、今までとは異なる責任感や重みを感じてプレーしないといけないなと思いました」
谷口さん
「努力の成果が目に見えてうれしいです。自分たちが積極的に行動できるような場をたくさん設けてもらえて、この学科を選んでよかったと思いました。学生のうちから経験できたことは、将来の確かな一歩につながったと思います」
カギは“ピッチ外の選手”!
アメリカを拠点として日本と世界をスポーツでつなぐ国際事業開発会社の代表を務め、スポーツビジネスに詳しい中村武彦さんは、専門学校での実践的な活動は国内では珍しく、非常に意義のある取り組みだと指摘します。
BLUE UNITED CORPORATION 中村武彦代表
「プロスポーツチームなどは、雇用側も含めてすべてが大企業なわけではなく、教育する余裕があるところはあまりありません。学生のうちからビジネス的にどう支えて、大きくしていくか考えながら関わっていくことはいい実践になると思います」
「チームを大きくし強くするのは選手だけではありません。“ピッチ外の選手”であるスタッフの存在も重要で、チームはこの両輪で回っています。“ピッチ外の選手”としてチームにどう貢献できるか学生のうちから考えて動くことが、即戦力となる人材につながると思います」