敦賀原発2号機 再稼働認めず 初の不合格判断 原子力規制委

東京, 8月28日 /AJMEDIA/

福井県にある日本原子力発電の敦賀原子力発電所2号機について、原子力規制委員会は28日、原子炉建屋の真下の断層が将来動く可能性が否定できないとして、再稼働の前提となる審査に不合格としたことを示す審査書の案をとりまとめました。
原発の再稼働を認めない判断は2012年に規制委員会が発足して以降、初めてです。

敦賀原発2号機の審査は2015年に始まり、原子炉建屋の真下にある断層が将来動くかどうかが焦点となってきましたが、審査を行う原子力規制庁は7月、動く可能性が否定できないとして、活断層の上に安全上重要な設備を設置することを認めていない規制基準に適合しているとは言えないとする結論をまとめました。

これに対し事業者の日本原電は断層の追加調査などを求めていましたが、原子力規制委員会は8月に社長と面談した上で、今回の審査では受け入れないことを決めています。

28日に開かれた定例会で、規制委員会は敦賀原発2号機について審査に不合格としたことを示す審査書の案を全会一致でとりまとめました。

今後、一般から意見を募るパブリックコメントを経て正式に不合格となる見通しで、再稼働を認めない判断は2012年に規制委員会が発足して以降、初めてです。

日本原電は改めて審査を申請する意向ですが、規制委員会は敷地内や周辺に100以上ある断層の再評価が前提だとしていて、申請できる時期は見通せず、再稼働の見通しは立たない状況です。

“決断に迷いなかった” 山中伸介委員長
原子力規制委員会の山中伸介委員長は敦賀原発2号機について審査に不合格とする初めての判断をしたことについて「大きな判断だったとは考えるが、今回の決断に迷いはなかった。技術的に十分判断できる時期で疑問を持つものではなかった」と述べました。

そのうえで審査に長期間を要したという指摘に対しては「審査の申請から去年まで8年弱のあいだ、十分な審査ができる状況になかったという異常な状況があった。非常に多くの申請書の間違いやデータの書き換えなどがあって、まともな審査ができた期間は非常に限られていた」と指摘し「この1年、論点を絞ったことで審査が進み、技術的に判断を下せたと思っている」と述べました。

また日本原電が断層の調査を続けて改めて審査を申請することを検討していることについては「事業者の申請は否定しない」としたうえで「再申請するならば、問題の断層だけではなくて、敷地全体の断層のリスクをきちっと評価をしてほしい。非常にたくさんの断層があるので、その活動性を否定することはたいへん困難なものとは推察する」と話していました。

異例の経過をたどった審査
敦賀原発2号機の審査は事業者の日本原電によるずさんな対応をめぐって、規制側が立ち入り検査や行政指導を繰り返すという異例の経過をたどりました。

原発の規制基準では将来動く可能性のある断層の上に原子炉など、安全上重要な設備を設置することが認められていませんが、2015年に原子力規制委員会の専門家会合が敦賀原発2号機の原子炉建屋の真下を通る断層が「将来動く可能性がある」と指摘しました。

この指摘を覆せない場合、敦賀原発2号機は再稼働できないため、日本原電はこれまでの審査会合でこの断層が将来動く可能性はないと反論してきました。

しかし2019年以降、断層のデータや資料に誤りや無断での書き換えといったずさんな対応が相次いで発覚し、規制委員会は審査を中断して立ち入り検査を行う異例の対応をとりました。

その後、再発防止策などを確認した上で審査を再開しましたが、すぐに新たな資料の誤りが次々に見つかり、実質的な審査に入れない状況が続きました。

そして2023年、規制委員会は改めて審査を中断し、断層に関する申請内容を修正して出し直すよう行政指導を行ったうえで、山中委員長が「これが最後の判断だ」として、日本原電に対し再度の修正は認めない方針を伝えました。

2023年8月に改めて申請書が提出され審査が再開されましたが、日本原電の断層に関する説明に対して、審査を行う原子力規制庁からは「科学的な根拠が不十分だ」といった指摘が相次ぎ、7月26日には規制庁が原発の規制基準に適合しているとは認められないとする結論をまとめました。

これを受けて日本原電は、8月2日に村松衛社長が規制委員会と面談し、審査を続けてもらいたいとして、追加調査を行った上で再度、申請内容を修正させてほしいと要望しましたが、規制委員会は追加調査の必要性に関する説明は具体性が乏しいなどとして受け入れないことを決めました。

日本原電は改めて審査を申請する意向を示していますが、敦賀原発2号機の敷地内外には、今回の審査で焦点となった原子炉建屋の直下の断層を含めて100以上の断層があり、規制委員会は再申請する場合これらの断層の再評価も前提となるとしていることから、いつ申請できるかの見通しは立っていません。

敦賀市の原発の歴史と経済
敦賀市は54年前に西日本で初めて商業用の原子力発電所が稼働した自治体で、市長は全原協=全国原子力発電所所在市町村協議会の会長を代々務めてきました。

市内には4つの原発が立地していて、1970年に日本原子力発電の敦賀原発1号機が営業運転を開始したあと、1979年に日本原子力研究開発機構の研究用の原発「ふげん」が本格運転を開始しました。

そして1987年に日本原電の敦賀原発2号機が営業運転を始め、1995年に日本原子力機構の高速増殖炉「もんじゅ」が発送電を開始しました。

しかし2008年には「ふげん」の廃炉作業が始まり、2011年の東京電力福島第一原発の事故のあと、2015年には敦賀原発1号機が、2016年には「もんじゅ」が相次いで廃炉になりました。

残る敦賀原発2号機も、原子炉建屋の真下の断層が将来動く可能性が否定できないとして、再稼働の見通しは立たない状況で、原発の運転停止や廃炉は市の人口や財政にも影響しています。

敦賀市の原発の従業員は2011年にはおよそ6000人いましたが、すべての原発の運転が停止した2012年には半数に減り、その後も2000人から3000人の間で推移しています。

市の人口も2011年には6万9000人あまりでしたが、2023年はおよそ6万3000人にまで減っています。

また、原発関連の市の収入も、原発事故前は、年間80億円から90億円ありましたが、廃炉や運転停止によって固定資産税や国の交付金などが減少し、2022年はおよそ50億円で、現状では、今後も減少が続く見込みです。

敦賀市は個別の事業を見直すことで余分な歳出を抑え、公共施設の改修を効率的に行うなどして、持続可能な財政を実現したいとしています。

専門家 “日本原電の経営問題につながる可能性”
原子力規制委員会が再稼働の前提となる審査に不合格としたことを示す審査書案をとりまとめたことについて、エネルギー政策や電力会社の経営に詳しい国際大学の橘川武郎教授は「活断層が否定できない原発は不合格と判断したことで、規制がきちんと働くことを示し原子力に対する信頼を高めた判断だった」と話しています。

また日本原電が保有している敦賀原発2号機と茨城県の東海第二原発のいずれも再稼働の見通しが立っていないことについて「敦賀原発2号機が再稼働できないことは、経営に対し大きなダメージを与えることは間違いない。原電は基本的にほかの電力会社からの出資で賄われているので、その出資をする意味があるのかという話になる。電力会社の中で2基とも動かないとなると日本原電を残すべきなのかという議論になることが一番のダメージになる」と話し、日本原電の経営問題につながる可能性があると指摘しました。

専門家 “地元の雇用や経済に長期的には影響出てくる可能性”
再稼働できないことによる地元経済への影響について、原子力と立地地域の関係に詳しい東洋大学の井上武史教授は「今回の結論は稼働できない状況が今後も続くという意味なので急激な影響はそれほどないと予想している」と話しています。

一方、敦賀原発2号機は出力が大きく、それに合わせた交付金も多かったほか、地域の雇用や経済活動を支えている存在だとして「地元の経済も再稼働を想定して準備をしてきたと思うが、稼働が見通せなくなったことで、準備を縮小したり撤退したりする企業も出てきて長期的には影響が出てくる可能性はある」と指摘しています。

そのうえで「原発の存在が非常に大きいという一本足打法の状態から、少しずつ大きなすそ野を作っていくことが重要だ。敦賀市では水素など新たなエネルギー産業にも力を入れているため、原子力も含めよいバランスで地域経済を支えていくことが必要だ」と話しています。

地元の関連企業 “審査再申請か 再稼働諦めるか早く結論を”
再稼働の見通しが立たなくなったことについて、敦賀市の原子力関連企業からは地域経済の将来を考えていくためにも、審査を再申請するか再稼働を諦めるか早く結論を出してほしいという声が上がっています。

敦賀市で40年以上にわたって原発のメンテナンスに使う工具を販売してきた会社は2011年の東京電力福島第一原発事故のあと、敦賀原発2号機をはじめ福井県内の原発も相次いで停止し、売り上げは一時、震災前のおよそ6割に落ち込んだということです。

その後、幹部の給与をカットしたり県内の原発が中心だった販路を火力発電所や県外の原発に広げたりして、業績を震災前を上回る水準にまで回復させてきました。

ただいまも敦賀原発での売り上げは全体の2割を占めていて仮に2号機が廃炉となれば、再び業績が悪化する可能性があるということです。

この会社の会長で敦賀商工会議所の常議員を務める小森英宗さんは日本原電は敦賀市に欠かせない企業だとして改めて審査を申請する意向を支持しているものの、原発頼みになっている地域経済をどうしていくか考えていくためにも早く結論を出してほしいと言います。

小森さんは「経済は待ってくれません。街全体では交流人口も含めて人は1万人減りました。日本原電は追加調査するにも早く結論を出して、本当に危ないなら止めて早く元の経済に戻してもらえるような手を打ってほしいです」と話しています。

“再稼働してほしい” “判断は賢明” 住民からさまざまな意見
敦賀市の住民からはさまざまな意見が聞かれました。

80代の女性は「親戚に原発関連の企業に勤めている人もいるので、私は再稼働してほしいです」と話していました。

また80代の男性は「地域の活性化になるので原発は動かしたほうがいいと思います。みんな安全性を大事にしてやっているので、あれもこれも悪いと心配していたら何も前に進まないと思います」と話していました。

一方、60代の女性は「いつ地震が起こるか分からないので断層の問題は心配です。市民生活の問題もありますが原発はないほうがありがたいです」と話していました。

また70代の男性は「原子力規制委員会の判断は賢明だと思います。原発で潤ってきたまちですが安全第一にしないといけないと思います」と話していました。

敦賀原発3号機 4号機 建設に地元から期待の声
敦賀原発2号機の再稼働に見通しが立たない中、地元からは日本原電が計画する敦賀原発3号機と4号機について、建設を期待する声が出ています。

2023年、敦賀市の米澤光治市長は建設予定地を視察し「設計や工事などのスケジュールに加えて、どれだけコストがかかるかなど計画を具体化してほしい」と述べ国が具体化を進めるよう求めました。

従来の計画では、敦賀原発3、4号機は2号機から西におよそ1キロ離れた場所に建設されることになっていて、1基あたりの出力は150万キロワット余りと完成すれば国内最大級の原発となる想定でした。

日本原電は2000年に地元の敦賀市と福井県に事前了解願いを提出し、市と県が受け入れたことから、2004年に、国に対し、増設に必要な審査を申請し建設に向けた準備工事を開始しました。

計画当初は3号機が2014年、4号機が2015年にそれぞれ運転を開始する計画でしたが、審査に時間がかかったことなどからたびたび工程が延期され、2011年に東京電力福島第一原発の事故が起きたあとは、政府が原発の新設、増設を想定しないとしたことを受けて、日本原電は2基の運転開始時期を「未定」と変更しています。

日本原電の村松衛社長は8月、3、4号機の増設について「現時点で越えなければいけない事業環境整備がある」と話し、経営上は今ある原発の再稼働を優先する考えを示しています。

一方、政府は2022年、原発を最大限活用する方針を打ち出し、廃炉となった原発の建て替えを念頭に、次世代型の原子炉の開発や建設を進めるとして、これまでの方針を転換しました。

現在、この方針の具体化も念頭にエネルギー基本計画の改定に向けた検討が進められていて、原発の建て替えについても支援策が議論されています。

新たな基本計画が敦賀原発3、4号機の増設に道を開くことにつながるのか注目されています。

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