東京, 10月25日, /AJMEDIA/
直木賞作家、今村翔吾さん。
作家活動をしながら書店のオーナーも務め、テレビではコメンテーターと忙しく動き回る彼が、今度は“サンタ”になると言います。
話を聞きに行くと、読書離れとも言われる今の時代に、どんな境遇の子どもたちにも本を届けたいという思いがありました。
直木賞作家兼書店オーナー
去年、「塞王の楯」で直木賞を受賞した作家の今村翔吾さん。
時代小説を執筆するかたわら、出版不況で閉店の危機にあった大阪・箕面市にある町の書店から頼まれて、2年前からオーナーを務めています。
(今村翔吾さん)
「頼まれたときには最初はお断りしようかなと思ったけど、一度だけ見に行きたいなということで行ったんですよね。そしたら、おばあちゃんと小学2年生くらいの女の子が絵本を買いに来てはって、僕自身も町の小さな本屋におじいちゃんと一緒に買い物に行ったことを思い出した。この本屋がなくなればこの女の子にとってのおばあちゃんとの思い出も含めて全部なくなるんだなと思ったときに、自分ができるんやったらやってみようかなと。本屋が僕にとっての日本全国への窓口だったし、世界への窓口だったし、過去への窓口でもあった。タイムマシーンでもあり、瞬間移動機である。自分は町の本屋にいっぱい経験を積ませてもらったので」
子どもたちに本を
今村さんの書店も参加しているのが、「ブックサンタ」。
経済的な理由などで、クリスマスを十分に祝うのが難しいという子どもたちのもとに本を届ける活動です。
ブックサンタでは、一般の人が書店で贈りたい本を選んで購入し、その本を書店を通じてNPOに寄付します。
そしてNPOが、事前に応募があった子どもの年齢などに応じて本を選びます。
そして、クリスマスにサンタが直接、子どもたちに本を手渡す仕組みです。
6年前に始まったブックサンタ、いまでは全国およそ1600の書店が参加しています。
(今村翔吾さん)
「まず、あなただけの本が届くというのが重要だと思っています。本を買えない子どもの元にも、必ずしも望んだものじゃないかもしれないけど、どこか偶然性があるかもしれない、子どもたちに読んで欲しい1冊が届くというのは意味があるのではないか」
今村翔吾「作家サンタ」になる
去年までは書店のオーナーとして参加してきたブックサンタを後押ししようと、ことし今村さんは新しい活動を始めました。
その名も「作家サンタ」です。
書店でNPOに本を寄付する人におすすめの本を推薦し、作家として子どもたちに本を届ける目利き役になるというものです。
(今村翔吾さん)
「作家ってよく、『いい作品を書くしかこの業界を支えることはできない』っていうんです。果たしてそうなのか。ぼくらのできることはもっとあるんじゃないか。作家は本を売る仕事ではなく、物語を、夢を売る仕事だと僕は思う。1冊の本が届くということは子どもたちの物語が始まるという意味でもある。僕たち作家が、やらなあかんことやなと思っています」
なぜ、そう思うのか。
そこには、作家になる前、ダンスのインストラクターとして厳しい環境の子どもたちと接してきた経験があると言います。
(今村翔吾さん)
「大変な子もいっぱいいたんよ。家庭の事情でそれこそ、困窮していて、なのに月謝も払えないけどいいよって通ってきて、電気が止まって冷たいお風呂入っている子とかもいっぱいいたし。金銭的なもので出会いの機会を奪われている子があるのであれば、ほんの少しかもしれないけど、機会を増やしてあげたいという思いはあります」
今村さんの呼びかけに応じて、続々と「作家サンタ」が増えています。
北方謙三さん、江國香織さん、湊かなえさん、それに柚月裕子さんなども作家サンタに加わりました。
ホームページでは、それぞれの作家が選んだ贈りたい本と、その理由を読むことができます。
今村サンタのおすすめ本は
作家サンタとして今村さんが選んだのは、65年前に書かれた時代小説「甲賀忍法帖」です。
いまの漫画やアニメで大人気の「たたかいの原型」が、この本にあるといいます。
(今村翔吾さん)
「これはすごいですよ。忍者ですけど、口からかまいたち飛ばしたり、風で敵を倒したり触れるだけで敵の血を吸い取ったり、顔が自由自在に変わったり、透明人間になったりとか。めちゃくちゃ楽しいです。65年前にこんなに新しい小説があるって不思議よね」
誰もが自分だけの1冊に出会う日に
この活動を通じて、クリスマスが必ずしも幸せな日ではないと感じている子どもたちが、自分だけの1冊に出会う日になれば。
今村さんはそう考えています。
(今村翔吾さん)
「決して心から笑えるような状態じゃないクリスマスも、世の中には当たり前にあって。むしろ涙することもあるかもしれない。でもこの1冊で涙が1粒でも消えて、笑顔が1つでも増えるならと願っています。本当に微々たる力かもしれないけれど」
今村さんは、本との出会いを増やしていくことは、自分の人生を作っていくことにすごく似ていると話していました。
さまざまな子どもたちが本との出会いを作る機会になりますように。
「ブックサンタ」は、12月24日まで、寄付を呼びかけているということです。