東京, 10月8日, /AJMEDIA/
ことしのノーベル物理学賞の受賞者に、現在のAI=人工知能の技術の中核を担う、「機械学習」の基礎となる手法を開発した、アメリカの大学の研究者など2人が選ばれました。
スウェーデンのストックホルムにあるノーベル賞の選考委員会は、日本時間の8日午後7時前、ことしのノーベル物理学賞の受賞者にアメリカのプリンストン大学のジョン・ホップフィールド教授と、カナダのトロント大学のジェフリー・ヒントン教授の2人を選んだと発表しました。
ホップフィールド教授は人間の神経回路を模倣した「人工ニューラルネットワーク」を使って、物理学の理論から画像やパターンなどのデータを保存し、再構成できる「連想記憶」と呼ばれる手法を開発しました。この手法によって、不完全なデータから元のデータを再現できるようになりました。
ヒントン教授はこの手法を統計物理学の理論などを使って発展させ、学習した画像などの大量のデータをもとに可能性の高さから未知のデータを導き出すアルゴリズムを開発しました。
2人が開発した手法などは、現在のAI=人工知能の技術の中核を担う「機械学習」の基礎となり、その後「ディープ・ラーニング」など新たなモデルの確立につながりました。
ノーベル賞の選考委員会は2人の功績について「1980年代以降、『人工ニューラルネットワーク』の研究開発において、重要な業績を積み重ねていて、すでに多くの恩恵をもたらしている。物理学の分野では、特定の性質を備えた新たな物質の開発など極めて幅広い分野で『人工ニューラルネットワーク』が使われている」と評価しています。
ヒントン教授「青天のへきれきで驚いています」
受賞が決まったヒントン教授は、選考委員会との電話インタビューで「こんなことが起こるとは思いませんでした。青天のへきれきで、驚いています」と喜びをあらわにし、「きょう、私はMRIの検査を受ける予定でしたがキャンセルすることになりそうです」と語り、会場の笑いを誘っていました。
人工知能学会会長「物理で取ったのは驚き」
人工知能学会会長で慶応大学教授の栗原聡さんは、ホップフィールド教授とヒントン教授の2人がノーベル物理学賞を受賞することについて、「人間の神経細胞をまねした人工的なネットワークを構築することで、機械でも人間と同じように記憶や認識ができるという考え方があって、この分野で顕著な成果を上げた最初の草分け的な存在がこの2人だ。まさに人間の脳でやっていることを機械的に、物理的になしえることを証明した。ノーベル賞は情報分野が無いので、どうなるかなと思っていたが、物理で持ってきたのは意外だった。2人の受賞は当たり前だが、カテゴリーがないので物理で取ったのは驚きだった」と話していました。
そして2人の功績について、「人工ニューラルネットワークによって、世の中ではディープラーニングやChatGPTのような生成AIという言葉が出てくるようになった。今を席けんしているAIはほぼ全てニューラルネットワークが元になっている。空港の画像認識やスマホの顔認証も当たり前だし、ChatGPTも流ちょうにしゃべるしいろんなことができる。問題も指摘されているが、全ての技術の元になったのが人工ニューラルネットワークなので、今の世界を作った元だと考えたら、すごい功績というのは誰もが分かる」と述べました。
また、ノーベル財団が公表した受賞した研究の説明資料で、この分野における日本人の貢献について触れられていることについて、「福島邦彦先生はヒントン先生が実証した画像認識する際に使う技術を最初に考えた方。ほかにも甘利俊一先生はニューラルネットワークの基本的な理論や仕組みをまとめ発展させた方で、貢献は非常に大きく、日本の研究者はAIの草分け的なところがある」と話していました。
物理学賞 これまで日本から12人受賞
物理学賞は、アメリカ国籍を取得した人を含め、これまで日本から12人が受賞しています。
2021年は、愛媛県出身でアメリカ国籍を取得している真鍋淑郎さんが受賞。気候をシミュレーションするモデルの基礎を開発し、地球温暖化の研究を切り開いた功績が評価されました。
当時、この分野の研究は物理学の対象ではないと見られていたことから、関係者には驚きが広がりました。
物理学賞 8日18:45以降発表
2024年のノーベル賞の受賞者は、日本時間の10月7日(月)から14日(月・祝)にかけて発表されます。
物理学賞の受賞者は、日本時間の10月8日(火)午後6時45分以降に、スウェーデンの首都・ストックホルムで発表されます。
こちらのNHKのニュースサイトでは、現地の発表会見の様子を、同時通訳付きで「ライブ配信」でお伝えするとともに、受賞者の情報を速報します。
注目の研究者は
物理学賞の注目の研究者です。
理化学研究所 理事長特別補佐 十倉好紀さん
消費電力が極めて少ないコンピューター用のメモリーの実現につながる「マルチフェロイック物質」の特徴を解き明かした、理化学研究所理事長特別補佐の十倉好紀さん。
東京科学大学 栄誉教授 細野秀雄さん
電力ロスが少ない次世代の送電線などへの応用も期待される「鉄系超電導物質」を発見した、東京科学大学栄誉教授の細野秀雄さんは、論文の引用回数の多さなどから注目されています。
東京大学 教授 香取秀俊さん
100億年で1秒も狂わない極めて正確な「光格子時計」と呼ばれる時計を開発した、東京大学教授の香取秀俊さんも注目されています。