インドネシア大統領選挙 投票日が3日後に迫る

東京, 02月11 /AJMEDIA/

「世界最大の直接選挙」とも言われるインドネシアの大統領選挙の投票日が3日後に迫る中、最新の世論調査では現職のジョコ大統領の後継者を自任するプラボウォ国防相が大きくリードしています。
ただ、過去の人権侵害やペアを組む副大統領候補の擁立の経緯をめぐって、民主主義の後退を懸念する声もあがっています。

東南アジア最大の人口と経済規模を持つインドネシアの大統領選挙には、プラボウォ国防相、アニス前ジャカルタ州知事、それに、ガンジャル前中部ジャワ州知事が立候補し、三つどもえの戦いとなっています。

現職のジョコ大統領は、3選が禁じられているため立候補せず、退任する見通しです。

選挙運動の最終日となった10日、3候補はそれぞれ首都ジャカルタや地方で大規模な集会を開き、有権者に支持を訴えました。

選挙戦では、ジョコ政権の政策の継承か、改革かが争点の1つとなっていて、最新の世論調査では、ジョコ大統領の後継者を自任するプラボウォ国防相の支持率が50%を超え、ほかの2人の候補者を大きく引き離しています。

ただ、プラボウォ氏をめぐっては
▽軍の幹部だった90年代後半に民主活動家の拉致事件に関与していたことや
▽ペアを組む副大統領候補にジョコ大統領の長男を擁立する際に司法による不透明とも言える判断があったことから
国民の間では民主主義の後退を懸念する声もあがっています。

投票は3日後の今月14日に行われ、即日開票されることになっていますが、過半数を獲得する候補がいない場合は、ことし6月に上位2人による決選投票が行われる予定です。

プラボウォ・スビアント氏について
プラボウォ・スビアント氏は72歳。

陸軍の幹部としてキャリアを重ねたあと、スハルト元大統領の次女と結婚し、軍の最高幹部として独裁的なスハルト政権を支えました。

政権末期には、民主活動家の拉致事件に関与したとして軍籍を剥奪されましたが、軍人時代に培った人脈を生かし巨大なグループ企業を率い、経営者としても成功を収めました。

2008年には、みずから政党を結成。

2014年と2019年の過去2回の大統領選挙に立候補しましたが、いずれも接戦の末、ジョコ大統領に敗れました。

前回の選挙後は、政権基盤の強化を目指すジョコ大統領から国防相として迎え入れられて関係を強め、2期目の政権を支えてきました。

3回目の立候補となる今回は、ジョコ大統領の後継者を自任し、首都移転やインフラの整備などジョコ政権が打ち出した政策の継続を訴えています。

また、ジョコ大統領の長男で36歳という若さで地方の市長を務めるギブラン氏を副大統領候補に据え、高い支持率を維持するジョコ大統領の人気を取り込もうとしています。

さらに過去の選挙で打ち出していた強い指導者のイメージを封印し、親しみやすさを全面に押し出した選挙戦を展開しています。

プラボウォ氏がコミカルに踊る動画は、「かわいい」というコメントとともにSNSで拡散され、有権者の半数以上を占める40歳以下の若い世代からの支持拡大をはかっていて、最新の世論調査では、支持率が50%を超えほかの2人の候補者を大きく引き離しています。

プラボウォ氏とペアを組んだ副大統領候補ギブラン氏について
ジョコ大統領の長男で、プラボウォ候補とペアを組み副大統領候補となったギブラン・ラカブミン・ラカ候補は36歳。

かつて父親のジョコ大統領も市長を務めていた出身地の中部ジャワ州にあるスラカルタ市で、3年前から市長を務めています。

ギブラン氏の立候補をめぐっては、憲法裁判所による不透明とも言える判断がありました。

インドネシアでは、正副大統領に立候補できるのは法律で40歳以上と定められていましたが、ギブラン氏の立候補が発表される数日前に憲法裁判所が「自治体の首長経験者であれば、40歳未満でも立候補は可能」という判断を示したのです。しかも、憲法裁判所の長官はジョコ大統領の妹の夫でギブラン氏のおじにあたる人物だったことから、一部の大学教授や人権団体などから「縁故主義による判断だ」といった批判の声があがりました。

そのあと、長官は倫理と行動規範の重大な違反があったとして解任されたものの、判断そのものが覆ることはありませんでした。

こうした動きについて、ジョコ大統領が退任後もみずからの政治的影響力を残すための試みだという見方も伝えられ、ほかの候補者の陣営からは、「政治がジョコ大統領一族に私物化され、民主主義が脅かされる」などと批判が相次ぎました。

プラボウォ氏 “候補者としてふさわしくない”という声も
プラボウォ氏は過去に関与した民主活動家の拉致事件をめぐり、大統領選挙の候補者としてふさわしくないという声もあがっています。

スハルト政権末期の1990年代後半に政権への批判を強める民主活動家が相次いで拉致された事件について、当時、軍の特殊部隊の司令官を務めていたプラボウォ氏は、部隊に指示を出すなど事件への関与を問われ、そのあと、軍籍を剥奪されています。

現地の人権団体は、拉致されたとみられる少なくとも22人の活動家や学生のうち、13人の行方がいまもわかっていないとして毎週、大統領府の前でプラボウォ氏など当時の軍幹部たちの写真を掲げ、真相究明を求めて抗議集会を行っています。

みずからも拉致され、その後生還することができたペトゥルス・ハリヤントさんは「プラボウォ氏が大統領選挙に立候補するのをインドネシアの政治が許し続けていることに、深い失望と怒りを感じている。もしプラボウォ氏が権力を握れば、民主主義の未来は暗い」と話していました。

プラボウォ氏は、今回の大統領選挙の討論会でほかの候補者から事件について問いただされる場面もありましたが「私は断固として人権を守る。なぜ私ばかりに行方不明者のことをたずねるのか。偏っている」などと反論しています。

専門家 “民主主義の後退 背景にはジョコ大統領の存在”
こうした状況について、インドネシアの政治が専門の立命館大学の本名純教授は「民主主義の後退だ」としたうえで、その背景には、高い支持率を後ろ盾にして民主主義の形骸化を図ってきた現職のジョコ大統領の存在があると指摘しています。

本名教授は、その具体的な事例として
▽ジョコ政権下で進められるインフラプロジェクトなどへの批判を強める活動家を相次いで逮捕したり
▽政治家や公務員の汚職捜査を担う独立機関の権限の弱体化を図ってきたりしたことを挙げ、「国民の人気の上に成り立つジョコ政権が、徐々に民主主義の価値を崩してきたというのがこの10年のインドネシアで起きている状況だ」と話しています。

そのうえで、ジョコ政権の継承を掲げ後継者を自任するプラボウォ氏が大統領になった場合「選挙に勝てば自分は正当なリーダーとしてなんでもできるのだという考えが引き継がれ、ジョコ政権下で浮き彫りになった民主主義の後退がさらに定着することも予想される」と分析しています。

Follow us on social

Facebook Twitter Youtube

Related Posts